膵炎を発症すると、食欲不振や嘔吐、下痢などの症状が現れ、放置すると命に関わる場合もある危険な病気です。
この記事では、犬の膵炎の原因や症状、具体的な治療法、予防法について解説します。また、膵炎にかかりやすい犬種や、膵炎の犬に適した食べ物の情報も紹介します。早期発見と適切なケアで、大切な愛犬の健康を守りましょう。
監修者 まさの森・動物病院 院長 安田賢
日本獣医生命科学大学卒業。
幼少期より動物に興味を持ち、さまざまな動物の飼育経験を持つ。
2012年11月、石川県金沢市にまさの森・動物病院を開業。
※監修は医療情報についてのみであり、ペット保険への加入を推奨するものではありません。
目次
犬の膵炎とは?
膵炎は、本来は十二指腸で活性化されるはずの膵酵素が、さまざまな原因で膵臓内で活性化されることにより発症します。活性化された酵素が膵臓自体を消化してしまい、そこに炎症が起きる病気です。この炎症は膵臓だけでなく、周辺の臓器にまで広がることがあります。
重症化すると、以下のような深刻な合併症を引き起こす可能性があります。
・多臓器不全
・ショック症状
・肝炎や胆嚢炎などの肝臓系の疾患
・血液凝固異常(DIC)
一方、慢性膵炎は長期にわたって膵臓に炎症が起こり続け、徐々に膵臓の機能が低下していく状態です。
犬の膵炎の症状
それぞれの症状の特徴を詳しく見ていきましょう。
急性膵炎の場合
特徴的な症状として、強い腹痛により「祈りのポーズ」と呼ばれる姿勢をとることがあります。
これは上半身を床につけたフセの状態でお尻だけを持ち上げる体勢で、腹部が床で圧迫されることによる痛みを和らげようとする行動です。
また腹痛のため、散歩に行きたがらない、動かない、鳴き叫ぶ、お腹が張る、抱っこや触診を嫌がるなどの様子が見られます。
慢性膵炎の場合
急性膵炎と比べると症状は緩やかですが、長期間にわたって膵臓に炎症が起こり続けることで徐々に膵臓が硬くなり、消化酵素の流れが悪くなっていきます。
その結果、膵臓の機能が次第に低下していきます。
また持続的な膵臓へのダメージにより、インスリンを分泌する細胞まで障害を受けると、糖尿病を併発することもあります。しかし、これらの症状は他の消化器疾患でも見られる一般的なものであり、症状だけでは急性膵炎と慢性膵炎を見分けることは難しいため、獣医師による適切な診断が必要です。
犬の膵炎の原因
特に食事については、油っこい食事や高脂肪のフード、おやつが原因となることが多く、誤食による食中毒が引き金になるケースも報告されています。
飼い主の適切な管理で予防できる要因も多いため、どのような食べ物に気をつけるべきか、しっかり理解しておくことが大切です。
膵炎の犬に与えてはいけない食べ物
さらに、ゆで卵などは避けるべき食材です。また、普段使用している高脂肪のドッグフードやおやつも控えめにする必要があります。
実際に、人間の食べていた唐揚げを誤食して重症の膵炎になってしまったケースも報告されています。そのため、膵炎の既往歴がない場合でも、人の食べ物を与えることは避け、適切な食事管理を心がけることが大切です。
犬の膵炎は放置すると危険な病気!
炎症が膵臓だけに留まらず、周囲の臓器に広がることで腹膜炎を引き起こすことがあるからです。
さらに、膵臓から漏れ出た消化酵素が自分の体の一部を溶かしてしまう自己消化が起こり、激しい痛みを伴います。この過程で産生される化学物質や炎症性サイトカインが血液中に入り込むと、全身の臓器に影響を及ぼす全身性炎症反応症候群(SIRS)を引き起こす可能性があります。
SIRSが進行すると、多臓器不全症候群やショック、腎不全、血液の凝固異常(DIC)などの重篤な合併症を引き起こし、致死率が高まります。症状が軽度であれば数日間の内科治療で回復が見込めますが、一度重症化してしまうと長期の入院治療が必要となり、最悪の場合は死に至ることもあります。
そのため、膵炎の症状に気づいたらすぐに動物病院を受診することが大切です。
膵炎にかかりやすい犬種はいる?
特に
ミニチュア・シュナウザー、
ヨークシャー・テリア、
コッカー・スパニエル、
コリー系(ボーダーコリー、シェルティを含む)、
ボクサー
などは注意が必要です。これらの犬種は遺伝的に高脂血症になりやすい傾向があり、それが膵炎発症のリスクを高める要因となっています。
年齢に関しては、中年期から高齢期の犬に発症が多く見られます。特に保険会社のデータによると、年齢を重ねるごとに膵炎になる確率が上昇することが示されています。若い犬でも発症することはありますが、シニア期に入ってからの発症が多いのが特徴です。
また、膵炎になりやすい犬としては、肥満気味の子や慢性的な高脂血症があることが挙げられます。さらにクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)や甲状腺機能低下症、糖尿病などの内分泌系の病気を持っている犬も、膵炎のリスクが高くなります。
犬の膵炎の検査方法
それぞれの検査にはどのような特徴があるのか、詳しく見ていきましょう。
血液検査
近年では、膵臓に特異的なリパーゼ(PLI:膵特異的リパーゼ)の測定が可能になり、80%の診断精度で膵炎を判断することができるようになりました。
他の臓器の状態や全身状態を評価するため、血液検査は重要な役割を果たします。
エコー検査
犬の急性膵炎の68%がエコー検査で異常が確認されているとの報告もあります。また、膵臓周辺の臓器の状態も同時に確認することができるため、他の疾患との鑑別にも役立ちます。
レントゲン検査
レントゲン検査は、胸部や腹部の全体像を把握するのに適しており、他の検査と組み合わせることで、より正確な診断につながります。
膵生検
麻酔下での開腹手術や腹腔鏡手術により実施され、膵炎の確定診断に最も確実な方法とされています。しかし、外科手術や麻酔による身体への負担が大きいため、一般的には他の検査で診断が難しい場合や、特殊なケースでのみ実施されます。
犬の膵炎の治療法
基本的には最低1週間以上の入院管理のもと、点滴による水分補給、投薬治療、食事管理などを組み合わせた総合的な治療が行われます。また、重症化した場合は外科的な処置が必要になることもあります。
点滴治療
嘔吐や下痢による脱水を改善し、失われた電解質(カリウムやカルシウムなど)を補正します。また、炎症によって産生される炎症性サイトカインを洗い流す効果も期待できます。
経口での水分摂取が難しい状況では、点滴により循環状態を改善し体調の回復を支援します。重症例では、血液の血漿中に含まれる膵酵素の活性を抑える成分を補うため、血漿輸血療法も実施されます。
投薬治療
まず、激しい腹痛を和らげるための消炎鎮痛剤を投与します。また嘔吐を抑えるために制吐剤を使用し、体力と水分の消耗を防ぎます。膵臓の炎症や壊死による細菌感染のリスクを考慮し、抗生物質が投与されることもあります。
症状が落ち着いてきた段階では、再発を予防するために膵酵素の働きを抑制するタンパク質分解阻害剤が処方されることもあります。
絶食治療
食事は膵臓への刺激を最小限に抑えるため、消化の良い低脂肪食を選択し、症状が落ち着いてきたら徐々に量を増やしていきます。
外科手術
また、血液の濾過透析は、重度の炎症により体内に蓄積された有害物質を取り除く目的で実施されます。このような高度な治療が必要な場合は、治療期間が数カ月に及ぶこともあります。
犬の膵炎の治療費例
軽度の膵炎では、通院治療が中心となり、診察料や検査料、内服薬代が主な費用項目です。おおよそ10,000円〜30,000円程度が目安です。
中等度の膵炎では、点滴治療やより詳しい検査が必要になる場合が多く、治療費は50,000円〜100,000円程度に上がることがあります。
重度の膵炎では、入院治療が必要となり、点滴、モニタリング、複数の薬剤投与を含め、治療費は100,000円以上になることもあります。
治療期間や追加検査の有無によっても費用は変動するため、詳細は獣医師に相談することが重要です。また、ペット保険に加入している場合は、補償範囲を確認しておくと良いでしょう。
犬の膵炎の予防方法
予防の基本は定期的な健康チェック、適切な食事管理、快適な生活環境の整備、適度な運動です。これらの要素を組み合わせることで、愛犬の健康を守ることができます。
定期的な検診を受ける
特にミニチュア・シュナウザーやヨークシャー・テリアなど、膵炎のリスクが高い犬種では、より慎重な経過観察が必要です。
また日常的な観察も重要で、お腹を痛がる、尻尾を丸める、すぐ座ってしまうなど、いつもと違う様子が見られた場合は、早めに受診することをお勧めします。早期発見できれば、治療効果も高く、重症化を防ぐことができます。
食事の管理をする
特に気をつけたいのが、おやつの与えすぎや人間の食べ物を与えることです。また、肥満も膵炎のリスク因子となるため、定期的な体重測定を行い、適正体重を維持することが重要です。
体重管理に不安がある場合は、獣医師に相談して適切な食事量やフードの種類について指導を受けることをお勧めします。過度な制限は栄養不足を招く可能性もあるため、専門家の指導のもとで管理を行いましょう。
生活環境を整える
まず、適度な休息がとれる落ち着いた場所を確保し、規則正しい生活リズムを保つことが大切です。食事の時間や場所も一定にすることで、安定した生活環境を作ることができます。
また、他のペットとのトラブルを避け、適切な温度管理や清潔な環境を保つことも、ストレス軽減につながります。
特に過去に膵炎を発症したことがある場合は、より慎重な環境管理が必要です。
運動をする
ただし、運動量は愛犬の年齢や体力に合わせて調整することが重要です。激しすぎる運動は逆効果となる可能性があるため、無理のない範囲で行うようにしましょう。
運動後は十分な休息を取らせ、体調の変化がないか観察することも大切です。特に暑い時期や寒い時期は、体調管理により注意を払う必要があります。
膵炎の犬におすすめの食べ物
ここでは、膵炎の愛犬に与えても安心な食材をご紹介します。
白米
食欲不振の際も受け入れやすく、水分も同時に摂取できるため、脱水予防にも効果的です。
ただし、炭水化物を過剰に摂取すると肥満の原因となる可能性があるため、与える量には注意が必要です。獣医師に相談しながら、愛犬の体格や活動量に合わせて適切な量を調整しましょう。
じゃがいも
与える際は、よく茹でて柔らかくし、皮を剥いて潰してから与えるようにします。硬いままでは消化に負担がかかる可能性があるためです。白米と組み合わせることで、より良好な消化吸収が期待できます。ただし、他の食材同様、与えすぎには注意が必要です。
鶏のささみ
調理方法としては、生で与えることは避け、茹でて余分な脂肪を取り除いてから与えることをお勧めします。茹で汁には旨味成分が含まれており、食欲を促進する効果も期待できます。体調の回復状態を見ながら、少しずつ量を増やしていきましょう。
ブロッコリー
与える際は、生のままだと消化不良を起こす可能性がありますので、必ず加熱して柔らかくし、細かく刻んで与えましょう。特に硬い茎の部分は、よく加熱して柔らかくすることが大切です。レンジでの加熱調理がお勧めで、茹でるとビタミン類が流出してしまう可能性があるためです。
キャベツ
与える際は、細かく刻んでから軽く加熱することをお勧めします。レンジでの加熱が最適で、加熱しすぎると栄養価が損なわれるため、程よい加減が重要です。生で与える場合は、より細かく刻んで、消化に負担がかからないよう注意が必要です。他の食材と組み合わせることで、より栄養バランスの取れた食事となります。
犬の膵炎は早期発見と予防が大事!
また、膵炎は一度発症すると再発のリスクも高いため、予防も大切です。特に食事管理は重要で、高脂肪食を避け、適切な量の食事を与えることが基本となります。定期的な健康診断を受けることで、異常の早期発見にもつながります。愛犬の健康を守るためにも、日頃からの観察と適切な生活管理を心がけましょう。
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※本記事では一般的な例をもとに情報をまとめています。各社の商品やプランによっては当てはまらないケースもあります。また、情報は公開日現在のものです。各種状況や法令情報等につきましては、公的機関等で最新情報をご確認ください。
監修者 まさの森・動物病院 院長 安田賢
日本獣医生命科学大学卒業。
幼少期より動物に興味を持ち、さまざまな動物の飼育経験を持つ。
2012年11月、石川県金沢市にまさの森・動物病院を開業。
・獣医がん学会
・日本エキゾチックペット学会
・鳥類臨床研究会(鳥類臨床研究会認定医)
・爬虫類・両生類の臨床と病理のための研究会
●まさの森・動物病院
※監修は医療情報についてのみであり、ペット保険への加入を推奨するものではありません。