ポンプ座
Antlia | |
---|---|
属格形 | Antliae |
略符 | Ant |
発音 | 英語発音: [ˈæntliə]、属格:/ˈæntlɪ.iː/ |
象徴 | 真空ポンプ |
概略位置:赤経 | 09h 26m 56.2s - 11h 05m 55.0s[1] |
概略位置:赤緯 | −24.54 - −40.42[1] |
広さ | 239平方度[2] (62位) |
バイエル符号/ フラムスティード番号 を持つ恒星数 | 9 |
3.0等より明るい恒星数 | 0 |
最輝星 | α 星(4.25等) |
メシエ天体数 | 0 |
隣接する星座 |
うみへび座 らしんばん座 ほ座 ケンタウルス座 |
ポンプ座(ポンプざ、Antlia)は、現代の88星座の1つ。18世紀半ばに考案された新しい星座で、真空ポンプをモチーフとしている[1][3]。
主な天体
[編集]恒星
[編集]4等星が1つある以外は5等星以下の暗い星だけの、目立つところのない星座である。
2022年4月現在、国際天文学連合 (IAU) によって1個の恒星に固有名が認証されている[4]。
- HD 93083:[5]。国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」でコロンビアに命名権が与えられ、主星はMacondo、太陽系外惑星はMelquíadesと命名された[6]。
この星座には最初からβ星が設定されていなかった[7]。
星団・星雲・銀河
[編集]由来と歴史
[編集]モチーフとなったポンプは、水を汲み上げるポンプではなく、科学実験において真空状態を作り出すための真空ポンプである[9]。ラカーユは、実験物理学を象徴するものとしている[3][10]。
ラカーユは、それまでのアルゴ座の領域の一部を切り離して、そこに Antlia pneumatica と Pixis Nautica[注 1]を設けた[11][注 2]。初出は、1756年に刊行された1752年版のフランス科学アカデミーの紀要『Histoire de l'Académie royale des sciences』に掲載されたラカーユの星図で、真空ポンプの星座絵と la Machine Pneumatique というフランス語の名称が描かれていた[3][12][13][14]。ラカーユの描いたポンプは、フランスの発明家ドニ・パパンが1670年代前半に使用した単気筒式のタイプであった[15][16]。ラカーユの死後の1763年に刊行された著書『Coelum australe stelliferum』に掲載された第2版の星図では、ラテン語化された「Antlia Pneumatica」と呼称が変更されていた[3][17]。
1801年にドイツの天文学者ヨハン・ボーデが刊行した星図『ウラノグラフィア』では、パパンがパリからロンドンに渡ってロバート・ボイルと共同で改良した2気筒式の真空ポンプが描かれている[3]。現在の Antlia という学名は、イギリスの天文学者ジョン・ハーシェルが提案したものである。ジョン・ハーシェルは、1844年のフランシス・ベイリー宛の書簡の中で、Antlia Pneumatica を Antlia と短縮することを提案した[3][18]。それを受けたベイリーが、翌年の1845年に刊行した『British Association Catalogue』において Antlia と改めたことにより、以降この呼称が定着することとなった[3]。
1922年5月にローマで開催されたIAUの設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、星座名は Antlia、略称は Ant と正式に定められた[19]。新しい星座のため星座にまつわる神話や伝承はない。
この星座の由来について「ロバート・ボイルが、ドイツの物理学者オットー・フォン・ゲーリケの考案した真空ポンプを改良した記念として設定した」とする説明が流布されたことがあった[16][20]が、これは事実とは異なる。
呼称と方言
[編集]日本では、当初「排氣器」という訳語が充てられていた。これは、1910年(明治43年)2月に刊行された日本天文学会の会誌『天文月報』の第2巻11号に掲載された、星座の訳名が改訂されたことを伝える「星座名」という記事で確認できる[21]。この訳名は、1925年(大正14年)に初版が刊行された『理科年表』にも引き継がれ[22]、戦後も継続して「排氣器(はいきき)」の呼称が使われた[23]。1952年(昭和27年)7月、日本天文学会は「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」[24]とした。このときに、Antlia の訳名は「ポンプ」に変更され[25]、以降この呼び名が継続して用いられている。
天文同好会[注 3]の山本一清らは異なる訳語を充てていた。天文同好会の編集により1928年(昭和3年)4月に刊行された『天文年鑑』第1号では星座名Antliaに対して「ポンプ」の訳語を充てていた[26]が、既にIAUが学名をOctansと定めた後の1931年(昭和6年)3月に刊行した『天文年鑑』第4号では星座名を Antlia Pneumatica、訳名を「空気ポンプ」と改め[27]、以降の号でもこの星座名と訳名を継続して用いていた[28]。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ a b c “The Constellations”. 国際天文学連合. 2023年1月15日閲覧。
- ^ “星座名・星座略符一覧(面積順)”. 国立天文台(NAOJ). 2023年1月1日閲覧。
- ^ a b c d e f g Ridpath, Ian. “Antlia”. Star Tales. 2023年1月15日閲覧。
- ^ “IAU Catalog of Star Names”. 国際天文学連合. 2023年1月15日閲覧。
- ^ "HD 93083". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年1月15日閲覧。
- ^ “Approved names” (英語). Name Exoworlds. 国際天文学連合 (2019年12月17日). 2019年12月31日閲覧。
- ^ “Coelum australe stelliferum / N. L. de Lacaille”. e-rara. 2023年1月7日閲覧。
- ^ "alf Ant". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年1月15日閲覧。
- ^ Allen, Richard H. (2013-2-28). Star Names: Their Lore and Meaning. Courier Corporation. p. 42. ISBN 978-0-486-13766-7
- ^ “Histoire de l'Académie royale des sciences” (フランス語). Gallica. 2023年1月15日閲覧。
- ^ a b Gould, Benjamin Apthorp (1879). “Uranometria Argentina: Brightness and position of every fixed star, down to the seventh magnitude, within one hundred degrees of the South Pole; with atlas”. Resultados del Observatorio Nacional Argentino 1: I-387. Bibcode: 1879RNAO....1....1G. OCLC 11484342 .
- ^ Ridpath, Ian. “Lacaille’s southern planisphere of 1756”. Star Tales. 2023年1月7日閲覧。
- ^ “Histoire de l'Académie royale des sciences” (フランス語). Gallica. 2023年1月7日閲覧。
- ^ 『フラムスチード天球図譜』(新装版)恒星社厚生閣、1980年、図29頁。
- ^ Ridpath, Ian. “Lacaille’s Antlia”. Star Tales. 2023年1月15日閲覧。
- ^ a b 村山定男『キャプテン・クックと南の星』(初版)河出書房新社、2003年5月10日、44-45頁。ISBN 978-4-309-90533-4。
- ^ “Coelum australe stelliferum / N. L. de Lacaille”. e-rara. 2023年1月7日閲覧。
- ^ “Extract (translated) from a letter from Professor Bessel to Sir J. F. W. Herschel, Bart. dated Königsberg, January 22, 1844”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society (Oxford University Press (OUP)) 6 (5): 62-64. (1844). Bibcode: 1844MNRAS...6...62.. doi:10.1093/mnras/6.5.62. ISSN 0035-8711.
- ^ Ridpath, Ian. “The IAU list of the 88 constellations and their abbreviations”. Star Tales. 2023年1月15日閲覧。
- ^ 原恵『星座の神話 - 星座史と星名の意味』(新装改訂版第4刷)恒星社厚生閣、2007年2月28日、88-89頁。ISBN 978-4-7699-0825-8。
- ^ 「星座名」『天文月報』第2巻第11号、1910年2月、11頁、ISSN 0374-2466。
- ^ 東京天文台 編『理科年表 第1冊』丸善、1925年、61-64頁 。
- ^ 東京天文台 編『理科年表 第22冊』丸善、1949年、天 34頁頁 。
- ^ 『文部省学術用語集天文学編(増訂版)』(第1刷)日本学術振興会、1994年11月15日、316頁。ISBN 4-8181-9404-2。
- ^ 「星座名」『天文月報』第45巻第10号、1952年10月、13頁、ISSN 0374-2466。
- ^ 天文同好会 編『天文年鑑』1号、新光社、1928年4月28日、4頁。doi:10.11501/1138361 。
- ^ 天文同好会 編『天文年鑑』4号、新光社、1931年3月30日、6頁。doi:10.11501/1138410 。
- ^ 天文同好会 編『天文年鑑』10号、恒星社、1937年3月22日、4-9頁。doi:10.11501/1114748 。