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チャフ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
米海軍のチャフ・キャニスター(RR-129とRR-124)
ほぐした状態のチャフ(大戦英軍の「ウィンドウ」)
チャフとフレアを同時に展開するB-1B

チャフ: chaff: Düppel)は、電波を反射する物体を空中に撒布することでレーダーによる探知を妨害するもの。電波欺瞞紙(でんぱぎまんし)とも呼ばれる[1]

電波帯域を目標とし誘惑と飽和を任務とした使い捨て型のパッシブ・デコイである[2]。chaffとはもみがらの事で、穀物に見せかけたまがい物という意味がある。

最も古くから用いられている対レーダー用デコイであり、現代では、軍用機軍艦の多くにレーダー警報受信機などと連携させて搭載されている[3]

概要

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金属電波を反射する性質があるため、これを撒布すればレーダーからはその撒布地点に目標があるように見える。この原理を利用したのがチャフである。

チャフとして使用されていたものは、初期のものはアルミ箔をレーダーを反射するのに必要な長さに切り、これを紙の両面に貼って使用した。現在では、滞空時間を重視しプラスチックのフィルムやワイヤーにアルミを蒸着させたものが主流となっている。

撒布に特化した形状をしたチャフをディスペンサーやランチャーによって空中に放ち拡散させる手法が従来から採用され、小型機や艦艇がチャフを撒く場合には現在でもその手法が採用される。

大型の電子戦機などでは機上でフィルムを高速切断して空中に撒く装置を備えたものもある。これは、妨害しようとするレーダー波の波長か、その整数倍の長さが最も効果的であるためである[3]。このため、敵のレーダー波長に合わせたチャフを持つ必要から非戦争状態の時からも仮想敵国の波長を探るためのSIGINT活動が行われる。

一つのチャフ・ユニットにより生じるレーダー目標をチャフ・バースト(Chaff burst)と称し、これが多量に重畳したものをチャフ雲(Chaff cloud)と称する[2]。また、チャフ雲をさらに連続して形成したものをチャフ回廊(Chaff corridor)と称する[4]

チャフは電波ホーミング誘導などレーダーによる誘導方式を採用したミサイルからの回避行動の一環として撒布される場合も多いが、光波ホーミング誘導ミサイルに対しては効果が無いため、フレアと同時に使用される。

用途

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用途は、「誘惑(seduction)」および「飽和(saturation)」である。

誘惑任務で用いられるとき、チャフは脅威レーダーからみて防御目標より大きなレーダー反射断面積(RCS)を有するように展開されるか、防御目標の至近距離に展開されねばならない。例えば、軍艦がこのような用途でチャフを展開する場合、艦の甲板にチャフが落ちるほどの距離に展開するのが普通である。そして、防御目標はチャフから離れるように運動する。チャフ自身は運動能力を持たないが、風による移動はあるため、これも利用される。そして、チャフは脅威レーダーの追尾を防御目標からチャフに引き寄せ(誘惑し)、最終的に防御目標を脅威レーダーの追尾から逃れさせるのである。それでも防御目標側が回避できない時は(相手が近接信管を搭載している弾頭などの場合)直撃ではなく「至近弾」の被害までに抑える目的もある。

飽和任務で用いられるとき、チャフは脅威レーダーからみて防御目標と近いRCSを有するように、かつ多数が展開されなければならない。脅威レーダーは、これらのチャフを真目標と同様に評価して真目標を判別しなければならないために対処能力に負荷がかかり、場合によっては飽和する[3]

本来の用途ではないが、ジェットエンジンに吸い込まれると不具合を起こすため、対象となる機体の前方にチャフを散布することで火器を使わずに作戦行動を妨害するという手法もある[5]

歴史

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第二次世界大戦中の1940年に、イギリスによってドイツの捜索レーダーフライア」、射撃管制用測距レーダー「ウルツブルグ」や航空機用機上レーダー「リヒテンシュタイン」を妨害するために開発され、「ウィンドウ」と命名された。イギリス空軍の夜間爆撃では電波妨害装置と共に使用されてドイツ軍高射砲迎撃機の回避に大きな成果を上げた。また、第二次大戦中の日本軍では、模造紙箔を貼ったものが主に用いられた。1943年11月13日の第四次ブーゲンビル島沖航空戦で、大日本帝国海軍航空隊は、敵艦隊の一方にチャフを撒布し、そちらに警戒を惹きつけたうえで、反対側から雷撃を加えて、大きな戦果を挙げた[6]

海軍でも、対艦ミサイルの発達とともに、これへの防御策としてチャフが注目されるようになった。特にエジプト海軍ミサイル艇の脅威を受けていたイスラエル海軍ではこれを重視したが、従来のチャフは航空機からの撒布が主体で、艦載用発射機は存在しなかったため、遭難信号として一般向けに販売されていた手持ち式発射機を参考に国内開発が行われた。こうして開発された艦載用発射機は、1967年のエイラート事件には間に合わなかった(発射機そのものは搭載されていたものの、まだ設置されたばかりで、発射可能な状態になっていなかった)が、1973年のラタキア沖海戦で実戦投入され、大きな効果を上げた[7]

脚注

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  1. ^ 米国議会への年次報告書 中華人民共和国に関わる軍事・安全保障上の展開2016” (PDF). 日本国際問題研究所. 米国国防長官府. p. 56 (2016年12月). 2022年10月11日閲覧。
  2. ^ a b デビッド・アダミー『電子戦の技術 基礎編』東京電機大学出版局、2013年。ISBN 978-4501329402 
  3. ^ a b c B・ガンストン、M・スピック「電子戦」『図解 現代の航空戦―エア・パワー最前戦』原書房、1985年、47-93頁。ISBN 978-4562016273 
  4. ^ 海軍兵学校. “Chapter 11 COUNTERMEASURES” (英語). Fundamentals of Naval Weapons Systems. https://man.fas.org/dod-101/navy/docs/fun/part11.htm 
  5. ^ 中国戦闘機が哨戒機に「チャフ」放出 オーストラリア政府発表”. CNN.co.jp. 2022年6月25日閲覧。
  6. ^ 立花正照『図解 電子航空戦―最先端テクノロジーのすべて』原書房、1986年、41頁。ISBN 978-4562018277 
  7. ^ ラビノビッチ, アブラハム『激突!!ミサイル艇』原書房、1992年。ISBN 978-4562022991 

関連項目

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