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ケレオス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ケレオス古希: Κελεός, Keleos, : Celeus)は、ギリシア神話の人物である。その名前は「キツツキ」の意[1]エレウシースの神話的な王で、デュサウレースと兄弟[2]メタネイラと結婚して、デーモポーン[3][4]トリプトレモス[5][6][7]カリディケー、クレイシディケー、デーモー、カリトエー[8]、ディオゲネイア、パンメロペー[9]、サイサラーをもうけた[9][10]

ホメーロス風讃歌』の第2歌「デーメーテール讃歌」によると、ケレオスはエレウシースを守護する主要な王の1人であり[11]ディオクレースエウモルポス、トリプトレモス、ポリュクセイノスとともに、女神デーメーテールからエレウシースの秘儀の儀礼とその神秘を学んだ最初の1人であった[12]

神話

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エレウシースの秘儀

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古代エレウシースの遺跡。

冥府の王ハーデースがデーメーテールの娘神ペルセポネーを攫ったとき、デーメーテールは老婆の姿になり、行方の分からない娘を探して放浪した。やがてデーメーテールはエレウシースを訪れ、ケレオスの娘たちと出会った。女神は娘たちにドースと名乗り、女中頭かあるいは乳母として働ける場所はないかと尋ねた。すると娘たちは父の館に来ることを勧め、またケレオスの妻メタネイラも女神を歓迎して、幼い息子デーモポーンの世話を任せた[13][14]

不思議なことに、女神がデーモポーンを世話すると、子供は何も口にしていないのに神のように急速に成長した。実はデーメーテールは子供に不死を与えようと考えて、子供の肌にアムブロシアーを塗り、香しい息を吹きかけた。さらに夜になると子供を火にくべて[15]、滅びゆく人間の肉体を削り落していたが[5]、その行為を目撃したメタネイラは、驚いて思わず止めに入った。デーメーテールはひどく怒ったが、正体を明かし、エレウシースに自分に捧げられた神殿を創設して、うやうやしく祭り、わが心をなだめるよう命じた[15]。そこでケレオスが人々を動員して神殿を建設すると、デーメーテールは神殿に移ったが、ペルセポネーを心配するあまり疲れ果て、また神々への憎しみと怒りから、1年のあいだ大地から一切の実りを失わせた(そうすることで人間を滅ぼし、神々に捧げられる供物を根絶しようとした)[16]。しかしペルセポネーと再会すると、デーメーテールは大地の実りを回復させ[17]、ケレオスはエレウシースの他の王とともに、女神からエレウシースの秘儀を伝授された[12]

トリプトレモス

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ケレオスの子供のうち、トリプトレモスは初めて農耕を行った人物とされる[7][18]。彼はデーメーテールの寵愛を受け、空を飛行する有翼の竜の車に乗って世界各地を旅し、農耕を広める役割を与えられた[5]。この人物は元来はアテーナイの英雄であったらしく、『ホメーロス風讃歌』では単にエレウシースの主要な王の1人として言及されている[11][12]。しかしその後、エレウシースがアテーナイに編入されると、ケレオスの子供とされ、重要な役割を持つようになったと考えられている[19]。トリプトレモスの系譜伝承は異説が多く、いくつかの文献ではエレウシース[5]ないしエレウシーノスの子となっている[20]アポロドーロスはデーメーテールがエレウシース王を訪れたとするパニュアッシスの主張を紹介しており[5]ヒュギーヌスが紹介する神話にいたっては、トリプトレモスはエレウシーノス王の子で、ケレオスは彼の敵となって現れている。すなわちトリプトレモスが世界を旅している間、ケレオスはエレウシースを代理で支配しており、トリプトレモスが帰国すると部下に命じて暗殺しようとするが、デーメーテールに命じられて王国をトリプトレモスに返還する[20]。現代の研究では、断片のみ伝わるソポクレース悲劇『トリプトレモス』はヒュギーヌスと同様の、ケレオスの陰謀を含んでいたのではないかと指摘されている[21]

その他の子供たち

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エレウシーノスとアテーナイとの戦争が終結したのち、エレウシースの秘儀はエウモスポルおよびケレオスの娘たちディオゲネイア、パンメロペー、サイサラーによって行われた[9]。アテーナイのスカンボーニダイ区英語版の伝承によると、サイサラーはクロコーン王と結婚した[10]

脚注

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  1. ^ カール・ケレーニイの邦訳、p.303。
  2. ^ パウサニアース、2巻14・2。
  3. ^ 『ホメーロス風讃歌』第2歌「デーメーテール讃歌」234行。
  4. ^ アポロドーロス、1巻5・1。
  5. ^ a b c d e アポロドーロス、1巻5・2。
  6. ^ オウィディウス『祭暦』4巻550行。
  7. ^ a b パウサニアース、1巻14・2。
  8. ^ 『ホメーロス風讃歌』第2歌「デーメーテール讃歌」109行-110行。
  9. ^ a b c パウサニアース、1巻38・3。
  10. ^ a b パウサニアース、1巻38・2。
  11. ^ a b 『ホメーロス風讃歌』第2歌「デーメーテール讃歌」150行以下。
  12. ^ a b c 『ホメーロス風讃歌』第2歌「デーメーテール讃歌」474行-482行。
  13. ^ 『ホメーロス風讃歌』第2歌「デーメーテール讃歌」91行-234行。
  14. ^ パウサニアース、1巻39・1。
  15. ^ a b 『ホメーロス風讃歌』第2歌「デーメーテール讃歌」235行-273行。
  16. ^ 『ホメーロス風讃歌』第2歌「デーメーテール讃歌」292行-356行。
  17. ^ 『ホメーロス風讃歌』第2歌「デーメーテール讃歌」470行-472行。
  18. ^ オウィディウス『祭暦』4巻557行-560行。
  19. ^ 沓掛訳注、p.68。
  20. ^ a b ヒュギーヌス、147話。
  21. ^ ソポクレース『トリプトレモス』断片解説、p.278。

参考文献

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