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第42回世界遺産委員会

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

第42回世界遺産委員会(だい42かいせかいいさんいいんかい)は、2018年6月24日から7月4日の間、バーレーンの首都マナーマで開催された。

バーレーンでは2011年に第35回世界遺産委員会が開催予定だったが、2011年バーレーン騒乱ユネスコ本部に会場変更されたため、この第42回が同国初の世界遺産委員会となる。通常、世界遺産委員会の開催地は前回委員会時に決まるものだが、第41回委員会では費用の高騰などもあって立候補する国がなかったため、同年秋のユネスコ総会でマナーマに決まった。会場はユネスコ村(the UNESCO Village, ザ・リッツ・カールトンの敷地内に設営)である[1]

文化遺産13件、自然遺産3件、複合遺産3件の計19件が登録された結果、世界遺産リスト登録物件の総数は1,092件となった。

委員国

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委員国は以下の通りである[2]。地域区分はUNESCOに従っている。

議長国 バーレーンの旗 バーレーン 議長ハヤ・ラシェッド・アル・ハリファ英語版
アジア太平洋 中華人民共和国の旗 中国 副議長国
オーストラリアの旗 オーストラリア
インドネシアの旗 インドネシア
キルギスの旗 キルギス
アラブ諸国 クウェートの旗 クウェート
チュニジアの旗 チュニジア
アフリカ ジンバブエの旗 ジンバブエ 副議長国
アンゴラの旗 アンゴラ
ブルキナファソの旗 ブルキナファソ
ウガンダの旗 ウガンダ
タンザニアの旗 タンザニア
ヨーロッパ北アメリカ アゼルバイジャンの旗 アゼルバイジャン 副議長国
スペインの旗 スペイン 副議長国
 ハンガリー 報告担当。担当者はAnna E. Zeichner
ボスニア・ヘルツェゴビナの旗 ボスニア・ヘルツェゴビナ
 ノルウェー
カリブラテンアメリカ ブラジルの旗 ブラジル 副議長国
 キューバ
グアテマラの旗 グアテマラ
セントクリストファー・ネイビスの旗 セントクリストファー・ネイビス

審議対象の推薦物件一覧

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物件名に * 印が付いているものは既に登録されている物件の拡大登録などを示す。太字は正式登録(既存物件の拡大などについては申請用件が承認)された物件。英語名とフランス語名は諮問機関の勧告時点に基づいており[3]、登録時に名称が変更された場合にはその名称を説明文中で太字で示してある。

第42回世界遺産委員会の審議では、初めて世界遺産を保有することになる国はない。このため、世界遺産条約を締約している193か国のうち、世界遺産を保有していない国は26か国のままで変化はない。

なお、勧告及び決議は「登録」「情報照会」「登録延期」「不登録」の4段階である。

自然遺産

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画像 推薦名 推薦国 勧告 決議 登録基準
アラスバラン保護地域 イランの旗 イラン 不登録 登録延期
Arasbaran Protected Area
Aire protégée d’Arasbaran
アラスバラン英語版アルメニアアゼルバイジャンに接するイラン北部地域で、複数の国立公園から成るその保護地域は、生物圏保護区になっている[4]。しかし、諮問機関であるIUCNは推薦されていた生態系生物多様性の両面について、顕著な普遍的価値は認められないとして「不登録」を勧告した[5]。審議では一段階上の登録延期となった[6]
梵浄山 中華人民共和国の旗 中国 情報照会 登録 (10)
Fanjingshan
Fanjingshan
梵浄山は武陵山脈中国語版の山で、生物圏保護区にもなっている[7]。IUCNは生物多様性の面での価値を認めたが、保護・管理状況などの面から「情報照会」を勧告した[8]。逆転登録されたこの物件は中国13件目の自然遺産であり、中国は前年まで同数(12件)で並んでいたアメリカ、オーストラリアを抜き、自然遺産保有数で単独1位になった[9]
奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島 日本の旗 日本 登録延期 ――
Amami-Oshima Island, Tokunoshima Island, the northern part of Okinawa Island, and Iriomote Island
Île Amami-Oshima, île Tokunoshima, partie nord de l’île d’Okinawa, et île Iriomote
推薦範囲は奄美群島国立公園やんばる国立公園西表石垣国立公園などに含まれる。 IUCNは生物多様性に関する潜在的な価値を認めたものの、北部訓練場返還地の編入なども含めた範囲の再考を求め、「登録延期」を勧告した[10]。6月1日に取り下げが決まった[11]第44回世界遺産委員会で登録されることになる。
バーバートン・マコンジュワ山脈 南アフリカ共和国の旗 南アフリカ共和国 情報照会 登録 (8)
Barberton Makhonjwa Mountains
Montagnes de Barberton Makhonjwa
バーバートン・マコンジュワ山脈は、スワジランドに接する国境部の山脈で、地質学的な価値から推薦された[12]。IUCNは顕著な普遍的価値を認めたが、保護状況の面などから情報照会を勧告した[13]。バーバートン・マコンジュワ山脈は世界最古の地層バーバートン・グリーンストーン・ベルト英語版が地球上の地表で最もまとまった状態で確認できる[14]
ピュイ山地フランス語版リマーニュ断層フランス語版の地殻変動地域 フランスの旗 フランス 登録 登録 (8)
Chaine des Puys - Limagne fault tectonic arena
Haut lieu tectonique Chaîne des Puys - faille de Limagne
第38回世界遺産委員会第40回世界遺産委員会ではいずれもIUCNは不登録を勧告し、審議で2回とも情報照会に引き上げられた。今回はIUCNも「登録」を勧告した[15]
ビキン川渓谷(シホテアリニ山脈中央部、2001年登録、の拡大)* ロシアの旗 ロシア 情報照会 登録 (10)
Bikin River Valley [extension of “Central Sikhote-Alin”, inscribed in 2001, (x)]
Vallée de la rivière Bikine [extension de « Sikhote-Aline centrale », inscrit en 2001, (x)]
従来40万ヘクタールあまりだった登録範囲に、ビキン川流域の116万ヘクタールあまりを追加する推薦であり、IUCNも価値の強化に繋がる推薦と認めたが、保護・管理状況などの面から「情報照会」を勧告した[16]

複合遺産

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画像 推薦名 推薦国 勧告 決議 登録基準
ピマチオウィン・アキ英語版 カナダの旗 カナダ (自然)登録
(文化)登録
登録 (3), (6), (9)
Pimachiowin Aki
Pimachiowin Aki
オジブウェー語で「生命を与える土地」を意味するピマチオウィン・アキ(ピマチョウイン・アキ)は、自然環境と先住民文化の両面で評価されている。第37回世界遺産委員会(2013年)では勧告・決議とも「登録延期」だったが、2016年の第40回世界遺産委員会では、先立って「登録」を勧告されていた。しかし、推薦国自身の事情で登録の先送りを申し出て認められた経緯があった[17]先住民による森林文化森林利用学を実践しているものとして評価された[18]
チリビケテ国立公園 - 「ジャガーマロカ  コロンビア (自然)登録
(文化)登録
登録 (3), (9), (10)
Chiribiquete National Park – “The Maloca of the Jaguar”
Parc national de Chiribiquete – « La Maloca du jaguar »
チリビケテ国立公園はコロンビアでは国内最大の保護区であり、シエラ・デ・チリビテケ英語版と呼ばれる山間部にそそり立つテプイテーブルマウンテン)はギアナ高地のものより複雑な形状をしている。文化的には先史時代岩陰遺跡や岩絵が残り、その芸術性から「アマゾンシスティーナ礼拝堂」と形容される。第29回世界遺産委員会でも推薦されていたが、その時には審議前に取り下げていた[19]
テワカン=クイカトラン渓谷 : メソアメリカの起源となる環境 メキシコの旗 メキシコ (自然)登録
(文化)登録延期
登録 (4), (10)
Tehuacán-Cuicatlán Valley: originary habitat of Mesoamerica
Vallée de Tehuacán-Cuicatalán : habitat originel de Méso-Amérique
テワカン英語版の遺跡は、ごく初期のトウモロコシ栽培を伝えるとされる[20]第41回世界遺産委員会で文化・自然の両面とも登録延期を勧告され、情報照会決議となっていた。IUCNは生物多様性の価値を認めて登録を勧告したものの[21]、ICOMOSは一部の基準に適合する潜在性を認めつつも、選定されている資産では証明されていないとして登録延期を勧告した[22]

文化遺産

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画像 推薦名 推薦国 勧告 決議 登録基準
ファールス地方のサーサーン朝考古景観 イランの旗 イラン 登録延期 登録 (2), (3), (5)
Sassanid Archaeological Landscape of Fars Region
Paysage archéologique sassanide de la région du Fars
サーサーン朝時代を伝える8箇所の遺跡群を対象とするが、諮問機関であるICOMOSは、比較研究や価値の証明が不十分であることを指摘し、登録延期を勧告した[23]
ムンバイヴィクトリア朝アール・デコの遺産群 インドの旗 インド 登録 登録 (2), (4)
Victorian and Art Deco Ensemble of Mumbai
Ensemble victorien et Art déco de Mumbai
ムンバイには、オーヴァル・マイダーン英語版など、19世紀から20世紀前半の植民地時代に建造されたヴィクトリア朝アール・デコの様式の建造物群が残る[24]。ICOMOSはその顕著な普遍的価値を認め、登録を勧告した。登録に際し、名称が「ムンバイヴィクトリアン・ゴシックアール・デコの遺産群[注 1] となった。委員会では本遺産群の中に2004年に登録されたチャトラパティ・シヴァージー・ターミナス駅があり、二重構造になるのではないかとの指摘をうけ、遺産の統合などを含めた検討が求められた[25]
交易の時代 : ジャカルタ旧市街(旧バタヴィア)とそこから離れた4つの島々 インドネシアの旗 インドネシア 不登録 ――
Age of Trade: Old Town of Jakarta (formerly Old Batavia) and 4 Outlying Islands (Onrust, Kelor, Cipir and Bidadari)
L’ère des échanges commerciaux : la vieille ville de Jakarta (anciennement Batavia) et quatre îles avoisinantes (Onrust, Kelor, Cipir et Bidadari)
オランダ東インド会社の繁栄を伝える旧バタヴィアの街並みと、ジャカルタ湾英語版の4つの島々を対象とする推薦だったが、ICOMOSからは都市開発による市街地の変貌などから価値の証明が出来ていないとして、不登録を勧告された[26]。推薦国は審議前に取り下げた[27]
山寺、韓国の山地僧院 大韓民国の旗 大韓民国 登録 登録 (3)
Sansa, Buddhist Mountain Monasteries in Korea
Sansa, monastères bouddhistes de montagne en Corée
韓国の伝統的な7つの山寺 (朝鮮語: 산사) が推薦されたが、ICOMOSは通度寺浮石寺法住寺大興寺の4寺のみについて登録を勧告した[28][29]。審議では残る鳳停寺麻谷寺仙巌寺も含む7寺すべての登録が認められた[30][31]。韓国語名は산사, 한국의 산지승원[32]
泉州(ザイトン)の史跡群 中華人民共和国の旗 中国 不登録 情報照会
Historic Monuments and Sites of Ancient Quanzhou (Zayton)
Monuments et sites historiques de l’ancienne Quanzhou (Zayton)
かつて西方世界で「ザイトン」の名で知られた港町、泉州の史跡群(古泉州(刺桐)史迹)は、いわゆる「海のシルクロード」とも関わる古い交易に関する歴史的建造物や遺跡16件を対象としていたが、ICOMOSからは根本的に練り直すべきとして「不登録」を勧告された[33]。審議では2段階上の情報照会決議となった[34]。再構成された資産は第44回世界遺産委員会で登録されることになる。
長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産 日本の旗 日本 登録 登録 (3)
Hidden Christian Sites in the Nagasaki Region
Sites chrétiens cachés de la région de Nagasaki
大浦天主堂原城跡および潜伏キリシタンゆかりの集落群などを対象としている。第40回世界遺産委員会に向けて推薦された際には、ICOMOSの指摘を踏まえて審議前に取り下げられたが、テーマを再考した今回の推薦に対しては、ICOMOSから12件全てについて登録が勧告された[35]
伝統的な商人の港ホール・ドゥバイ アラブ首長国連邦の旗 アラブ首長国連邦 不登録 ――
Khor Dubai, a Traditional Merchants’ Harbour
Khor Dubaï, un port marchand traditionnel
ホール・ドゥバイ(ドバイ・クリーク)はドバイ中心地を流れており、バール・ドバイ地区にはアル・バスタキヤのような歴史地区も残されている[36]第38回世界遺産委員会では「不登録」勧告、「登録延期」決議。第41回世界遺産委員会では「不登録」勧告、「情報照会」決議。今回もICOMOSは3度目となる不登録勧告を行なった[37]。推薦国は前2回と異なり、審議前に取り下げた[38]
カルハットの都市遺跡 オマーンの旗 オマーン 情報照会 登録 (2), (3)
Ancient City of Qalhat
Cité ancienne de Qalhât
カルハットはポルトガル到達以前のホルムズ王国の港町の遺跡で、かつての繁栄を伝えている[39]。ICOMOSは顕著な普遍的価値を認めたが、資産の範囲修正の必要性などを理由に、「情報照会」を勧告した[40]
アハサー・オアシス、進化する文化的景観 サウジアラビアの旗 サウジアラビア 不登録 登録 (3), (4), (5)
Al-Ahsa Oasis, an Evolving Cultural Landscape
Oasis d’Al-Ahsa, un paysage culturel en évolution
アハサーは、新石器時代以来のオアシス文化の変遷を伝える資産として推薦されたが、ICOMOSは顕著な普遍的価値が証明されていないとして、「不登録」を勧告した[41]。不登録勧告からの逆転登録となったサウジアラビアのアハサー・オアシスは「進化する文化的景観」を冠しているだけあり、オアシス的な井戸灌漑施設ヤシ園に加え、状況に応じて改修用途変更)されてきた排水運河などオアシス都市としてのさまざまな施設考古遺跡と現存し使われ続けている建造物として併存する連続的なもので、長い歴史の中で気候変動に対応してきた足跡が確認でき、従来の自然と人間の共生の枠に留まらない新たな類型の文化的景観「地球文化的景観(geocultural landscape)」であるとした[42]
ティムリカ・オヒンガの考古遺跡  ケニア 登録 登録 (3), (4), (5)
Thimlich Ohinga Archaeological Site
Site Archéologique de Thimlich Ohinga
ティムリカ・オヒンガは、ケニアのミゴリ・カウンティに残る14世紀以来の石造集落遺跡である。第39回世界遺産委員会文化的景観として推薦された際に、価値の焦点を考古遺跡に絞って再考すべきとして、「情報照会」決議となっていた[43]。ICOMOSはその文化的伝統を伝える価値を認め、登録を勧告した[44]。ティムリカ・オヒンガはバントゥー系民族のKabuoch・Kadem・Kanyamkago・Kamgudhoといった諸部族の足跡が多重的に残されており、アフリカの世界遺産に多文化主義を反映させる新たな施策に基づき(後述する「その他の議題」の節を参照)、部族単位の文化の違いを知ることができる点が評価された[45]
20世紀の産業都市イヴレーア イタリアの旗 イタリア 情報照会 登録 (4)
Ivrea, industrial city of the 20th century
Ivrée, cité industrielle du XXe siècle
イヴレーアはオリベッティ社発祥の地であり、都市にはオリベッティ社の施設群(コンプレッソ・オリヴェッティイタリア語版)などが残る。ICOMOSはその顕著な普遍的価値は認めたものの、保護体制の不備などから情報照会を勧告した[46]
コネリアーノヴァルドッビアーデネプロセッコ栽培丘陵群 イタリアの旗 イタリア 不登録 情報照会
Le Colline del Prosecco di Conegliano a Valdobbiadene
Les collines du Prosecco de Conegliano et Valdobbiadene
DOCGに分類されるワインプロセッコ・ディ・コネリアーノ=ヴァルドッビアーデネイタリア語版の産地を対象とする文化的景観である。しかし、ICOMOSは、ワイン生産地の世界遺産がすでに多く登録されている中で、この資産がそれらと異なる価値を持つことの証明がなされていないとして、「不登録」を勧告した[47]。審議では2段階上の情報照会決議となった[48]
カリフ都市メディナ・アサーラ スペインの旗 スペイン 登録 登録 (3), (4)
Caliphate City of Medina Azahara
Ville califale de Medina Azahara
メディナ・アサーラは後ウマイヤ朝期の都市遺跡だが、短い栄華の後、20世紀初頭まで埋もれていたことから、当時の建築のさまざまな特色をよく残している[49]。ICOMOSはその顕著な普遍的価値を認め、登録を勧告した[50]。考古遺跡としては砂漠乾燥地帯で育まれたアラブの水利技術が、侵攻地の気候風土に合わせ発展させた様子をうかがえることが特に評価された[51]。また、アラブ様式を基調にしながら在地イベリアの様式も採り入れた文化循環が見られ、イスラム世界キリスト教世界の文化の懸け橋的存在と評価された[52]
ホップの町ジャテツ英語版  チェコ 登録延期 登録延期
Žatec – the Town of Hops
Žatec – la ville des houblons
ジャテツの歴史地区と、近現代のホップ加工関連施設が残る郊外を対象とする推薦だったが、ICOMOSは価値の証明自体が不十分として登録延期を勧告し[53]、審議結果も同じだった[54]
アーシヴィスイト=ニピサット、氷と海の間のイヌイットの狩場  デンマーク
グリーンランドの旗 グリーンランド
登録 登録 (5)
Aasivissuit – Nipisat. Inuit Hunting Ground between Ice and Sea
Aasivissuit-Nipisat. Terres de chasse inuites entre mer et glace
西グリーンランドのケカッタに残る文化的景観で、サカク文化以来の4000年以上に渡る伝統的狩猟・漁撈生活を伝える[55]。ICOMOSはその顕著な普遍的価値を認め、登録を勧告した[56]
ヘーゼビューダーネヴィルケ英語版の境界上の考古景観 ドイツの旗 ドイツ 登録 登録 (3), (4)
Archaeological Border Landscape of Hedeby and the Danevirke
Paysage archéologique frontalier de Hedeby et du Danevirke
ダーネヴィルケはデーン人たちがその勢力範囲においていたユトランド半島と、その南の他勢力の地域を画する土塁で、中世に交易地として栄えたヘーゼビューの近傍に築かれた[57]。ICOMOSは名称の変更を勧告したものの、価値そのものは認め、「登録」を勧告した[58]。登録に際し、名称が「ヘーゼビューとダーネヴィアケの考古学的境界線群[注 2] となった。両遺跡は野外博物館の模範例であると評価された[51]
ナウムブルク大聖堂 ドイツの旗 ドイツ (勧告不能) 登録 (1), (2)
Naumburg Cathedral
Cathédrale de Naumburg
周辺も含む文化的景観として、第39回世界遺産委員会で登録延期、第41回世界遺産委員会で情報照会決議を受けており、ナウムブルク大聖堂に絞った再考を促されていた。ICOMOSは大聖堂が同時代の他の大聖堂に対して傑出した価値を持つことの証明がなされていないとして不登録と判断したが、以前の世界遺産委員会がすでに顕著な普遍的価値の存在を前提とする決議を出していることから、勧告を出せないとした[59]。これを踏まえた世界遺産センター作成の決議案は「不登録」となった[60]
ハンブルク=アルトナ ドイツの旗 ドイツ ―― ――
Hamburg-Altona
Le cimetière juif de Hambourg-Altona
もともとフランス語名にあるように、「ハンブルク=アルトナのユダヤ人墓地ドイツ語版」として推薦されていた物件だが、正式勧告前に取り下げられた。
ギョベクリ・テペ トルコの旗 トルコ 登録 登録 (1), (2), (4)
Göbekli Tepe
Göbekli Tepe
ギョベクリ・テペはシャンルウルファ県に残る先土器新石器時代に遡る考古遺跡であり、ICOMOSはその価値を認めて「登録」を勧告したが、その保全のために危機遺産リストへの同時登録も勧告した[61]
ニームの歴史都市建造物群 フランスの旗 フランス 登録延期 登録延期
Historic Urban Ensemble of Nîmes
Ensemble urbain historique de Nîmes
ニームは古代ローマ以来の歴史を持つ都市で、その時代の遺跡だけでなく、その後の時代の建造物群にも影響が多く残っており[62]エリザベート・ドゥ・ポルトザンパルク英語版による現代建築まで対象に含まれている[63]。しかし、ICOMOSは価値の証明自体が不十分として、登録延期を勧告し[64]、審議結果も変わらなかった[65]
第一次世界大戦西部戦線)の追悼と追憶の場 フランスの旗 フランス
ベルギーの旗 ベルギー
―― ――
Funeral and memorial sites of the First World War (Western Front)
Les sites funéraires et mémoriels de la Première Guerre mondiale (Front Ouest)
正式な勧告前に次回以降への延期が決まった[66]。この物件(戦場墓地記念碑など)に関しては、近代以降の戦争の在り方を世界遺産として顕彰する意義があるのかが焦点となり、今後類似した推薦案件を取り扱う際のケーススタディーとなる[67]
慈善の集団居住地群 ベルギーの旗 ベルギー
オランダの旗 オランダ
登録延期 情報照会
Colonies of Benevolence
Colonies de bienfaisance
1818年にヨハネス・ファン・デン・ボスによってはじめられた都市貧民の救済を目的として田園地帯に築かれたフレデリスクオード英語版ウィルヘルミナオード英語版ヴィーンハイゼン英語版ウィレムスオード英語版オメルシャンス英語版(以上オランダ)、ワーテル英語版メルクスプラス英語版(以上ベルギー)の7箇所の入植地を対象とする推薦だったが、ICOMOSは構成資産の全体が価値を持つとは認めず、潜在的に価値を認めうる資産に絞り込むことなどを指摘し、「登録延期」を勧告した[68]。審議では情報照会決議となった[54]。第44回世界遺産委員会で登録されることになる。
ロシア・モンタナ英語版の鉱山景観  ルーマニア 登録 情報照会
Roșia Montană Mining Landscape
Paysage minier de Roșia Montană
ロシア・モンタナは古代ローマ時代以来の鉱山であり、推薦には、周辺で鉱業を支える近現代の農牧業の文化的景観も含まれていた[69]。ICOMOSは「登録」を勧告したものの、認められる価値の中心をローマ時代の遺跡に置き、名称を「ロシア・モンタナの古代ローマ金鉱群」(Roman Gold Mines of Roșia_Montană) とすべきことと、その完全性の危うさから、登録と同時に危機遺産リストに登録することを勧告した[70]。しかし、推薦国は国際的な調停が継続中との理由から情報照会とすることを求め、そのように決議された[71]。第44回世界遺産委員会で登録されることになる。
クロンダイク カナダの旗 カナダ ―― ――
Tr’ondëk-Klondike
Tr’ondëk-Klondike
クロンダイク・ゴールドラッシュの地(Tr’ondëkはクロンダイクの語源になった、先住民による呼称)だが、正式勧告前に取り下げられた。

危機遺産

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リストからの除去

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画像 登録名 保有国 世界遺産登録年 危機遺産登録年
ベリーズ珊瑚礁保護区 ベリーズの旗 ベリーズ 1996年 2009年
ベリーズ珊瑚礁保護区は、グレート・バリア・リーフに次ぐ世界2位の規模の珊瑚礁とも言われるが、過度の開発やマングローブ林伐採などによって、危機遺産リストに登録されていた。ベリーズの珊瑚礁保護区が危機遺産から除去するかを検討する議事において、当事国であるベリーズから12歳の少女マディソン・エドワーズが列席して同国の環境対策への取り組みなどを報告し、その結果として危機遺産から脱することになった。世界遺産委員会の公式討議に未成年者が参加することは極めて異例な出来事である[72]

リストへの新規登録・再登録

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画像 登録名 保有国 世界遺産登録年 危機遺産登録年
トゥルカナ湖国立公園群  ケニア 1997年 2018年
砂漠の中にある湖、そしてアルカリ性の湖としても世界最大のトゥルカナ湖は、その立地環境から地域住民の糧(灌漑牧畜)となっており、水生生物水鳥などの生物多様性も保持している。しかし、湖に注ぐオモ川上流のエチオピアにおいてダム建設が進められたことで、渇水や淡水流入不足から水質の変化が予想されることから、危機遺産に指定された。これに関してユネスコはエチオピアに対し対策を講じるよう要請したが、エチオピアに協力する意思がなく、遺産を所有するケニア一国では対処のしようがない状態にある。また、ケニア国内でも漁獲制限を設けていながら密漁が横行し、家畜排泄物流入による汚染、新たに始まった農園への過度な取水といった問題もある。この議題に関しては2019年の第43回世界遺産委員会でも再度議論される[73]

名称変更

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推薦国の申請に基づき、以下の通りに名称が変更された[74]

旧登録名 新登録名(一部仮訳)
 デンマーク
シェラン島北部のパル・フォルス式狩猟の景観 シェラン島北部のパル・フォルス式狩猟の景観
The par force hunting landscape in North Zealand (変更なし)
Le paysage de chasse par force de Zélande du Nord Paysage de chasse à courre de Zélande du Nord
エリトリアの旗 エリトリア
アスマラ:アフリカの近代主義都市 アスマラ:近代主義的アフリカ都市
Asmara: a Modernist City of Africa Asmara: A Modernist African City
Asmara : une ville moderniste d’Afrique Asmara : une ville africaine moderniste
インドの旗 インド
ビハール州ナーランダーのナーランダー・マハーヴィハーラ(ナーランダ僧院)考古遺跡 ビハール州ナーランダーのナーランダー・マハーヴィハーラ考古遺跡
Archaeological Site of Nalanda Mahavihara (Nalanda University) at Nalanda, Bihar Archaeological Site of Nalanda Mahavihara at Nalanda, Bihar
Site archéologique Nalanda Mahavihara (université de Nalanda) à Nalanda, Bihar Site archéologique Nalanda Mahavihara à Nalanda, Bihar

このほか、「イェリング墳墓群、ルーン文字石碑群と教会」(デンマーク)が「イェリング - ヴァイキング時代の記念碑群」(Jelling – Viking Age Monuments)への変更を希望していたが、「ヴァイキング時代」の扱いなどをめぐってICOMOSが不承認とすべきことを示し[75]、審議でも認められなかった[76]

軽微な変更

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以下の通り、軽微な変更が行われた[77]

登録名 保有国 変更内容
済州の火山島と溶岩洞窟群 大韓民国の旗 大韓民国 登録範囲の変更
ドゥブロヴニク旧市街 クロアチアの旗 クロアチア 緩衝地帯の設定
モン・サン=ミシェルとその湾 フランスの旗 フランス
アクイレイアの遺跡地域と総大司教座聖堂のバシリカ イタリアの旗 イタリア
トシェビーチのユダヤ人地区と聖プロコピウスのバシリカ  チェコ 範囲の変更および緩衝地帯の設定
イェリング墳墓群、ルーン文字石碑群と教会  デンマーク

その他の議題

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その他の話題

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委員会への批判

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今回の世界遺産委員会は11日間におよび、さまざまな議論が繰り広げられた。世界遺産という制度の注目度から多角的な議論が必要になっていることは仕方ないにせよ、例えば上記「その他の議題」の節にあるように、世界遺産と水の危機を絡めた議論は委員会のみで解決できる問題ではなく、ユネスコの水文学セクションを交え長期にわたり検討すべきとされる。この(主としてダム)に関するセッションにはNGOや民間のコンサルタント・デベロッパーなども聴講者として多数参加していたが、委員会に参加したことで開発に際して環境に配慮している姿勢を表す免罪符としたり、ダム開発を進める行政建設業者から活動資金の提供を供与されるなどの利権に利用されているという指摘もある。議論が増えることで委員会の会期が年々長引き、その開催費用は数億円単位に膨らんでおり、予算を捻出できない途上国での開催誘致が困難になってもいる(今委員会開催地を決める前回の世界遺産委員会では立候補地が現れず、先送りになった経緯もある→「第41回世界遺産委員会#その他の議題」参照)[106]

脚注

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注釈

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  1. ^ 原語 英語: Victorian Gothic and Art Deco Ensembles of Mumbai / フランス語: Ensembles néo-gothique victorien et Art déco de Mumbai
  2. ^ 原語 英語: Archaeological Border complex of Hedeby and the Danevirke / フランス語: Ensemble archéologique frontalier de Hedeby et du Danevirke
  3. ^ そもそも世界遺産が制定されたのは、ヌビア遺跡アスワン・ハイ・ダムかんがい施設遺産)の建設により水没することから救済する活動が発端である
  4. ^ 世界遺産と水資源・水環境に関して日本は、世界遺産委員会終了後の9月16~21日に東京で開催された国際水協会英語版による 世界水会議政府出展ブース において、生活水の水源が世界遺産登録地にある場所(例:紀伊山地の霊場と参詣道屋久島)における水保全英語版の技術を紹介した
  5. ^ この概念を用いれば、モンゴルが文化的景観として世界遺産を目指したいとしながら、現実的には難しいとされた遊牧民の生活景観のような流動景観(Flowing landscape)の可能性も現実味を帯びる。遊牧景観の世界遺産としてはトナカイ遊牧を行うサーメ人ラポニア地域があるが、サーメの遊牧は定住家屋を拠点に男を中心に行われるのに対し、モンゴルの遊牧は家屋(ゲル)ごと移動し家族全員で行われるより大掛かりなもののため検証が難しいとされる。但し、モンゴルの遊牧も近代化著しく、よりオートバイ自動車が主流になりつつあり、そうしたことが世界遺産への足枷になっている。(以上、『ワールドカルチャーガイド モンゴル』トラベルジャーナルより)
  6. ^ ユネスコは国際スポーツ文化協会英語版との協議で、無形文化遺産に登録されているモンゴルナーダム相撲競馬弓射)や韓国のテッキョンなど伝統競技の伝承とそれを見学・体感するスポーツ文化ツーリズムを推進しており、スポーツ施設は世界遺産では未開拓の分野であることからその存在意義に注視もする。競技場としてはギリシアデルフィにあるスタディオンやイタリアのローマ歴史地区にあるコロッセオなど古代のもの、ブラジルのブラジリアにあるエスタジオ・ナシオナル・デ・ブラジリア現代建築として世界遺産となっている。現代都市化する歴史都市では、競技場の新設に際してトラディショナル・サクセション・アーキテクチャのような様式にすることがニューアーバンアジェンダなどで望まれている(例:意匠を採り入れた国立競技場など)。なお、日本イコモス委員会は将来の世界遺産候補として選定した日本の20世紀遺産の中で、国立代々木競技場を上げている。

出典

[編集]
  1. ^ General Information世界遺産センター
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参考文献

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外部リンク

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